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ハイパーインフレとは。金が舞い、憎悪が地を這う世界の終わり――【感想】『ハイパーインフレの悪夢』

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【(忙しい人)この本を読んでわかること――要はハイパーインフレの世界とはどういうものか】

・ドイツが直面した世界最恐のハイパーインフレの時の状態。市民が極限状態でどう振る舞うかなど、様々な人間の姿も描かれる。

ハイパーインフレの大きな要因の一つである紙幣の刷りすぎに気付かずに、お金を刷り続ける金融当局のせつなさ? むなしさ?

など。

 

【文体や書き方】

 書き方については特に不満はなく読みやすいです。

 ですが……。

 どうも個人的には、あまりにも数字の表記が多すぎるのと、政府の財政政策がことごとく空振りに終わるさまが執拗に描かれていて結構読んでいて負担でした……。

 数字の表記を取り扱わざるを得ないのは分かります。

 ハイパーインフレの世界とはいったいどういう状況になるか、当然ながら物価を取り扱う必要があるのでしょうがないのです。

 しかし、にしても一ページの中で2,3回値上がりする様子が描かれても正直面倒だなとしか思わなかったですね笑

 政府も空回りした金融政策を次から次へと打ち続けて、その様子は痛ましいにもほどがあるというか、見ていて目に余るものがありましたね。

 ただ、物事の原因や本質を見極めて対処することの大切さはひしひしと伝わってきました。

 今の世界は本当にGoogleなどの検索能力が発展したおかげで、様々な情報を収集し、課題の本質を見抜きやすくなっているという点で本当に素晴らしい世界だなーと感じたり。

 

【紹介――ハイパーインフレの世界とは】

 想像してみてほしい。

 手押し車にうずたかく積まれた紙幣の山を。

 道の凸凹で車が揺れるたびにはらはらと紙幣が舞い落ちる。

 その景色を見ながら手押し車を押す彼は涙をこぼすだろう。

 そこに刻まれた数字は日に日に増える。

 輪転機は無制限に回転し続け、けたたましい悲鳴をあげながらこの世の紙という紙を使いながら金を吐き出す。

 昨日は紙に書かれていたゼロが6個だったのに、今日には7個になっている。

 かつてよく使われていた3個のゼロが並ぶ紙はもはや記憶の彼方に飛び去っている。

 その紙がつかわれていた頃が懐かしい。

 当時は平和だった。

 そのお金を出せば卵が15個ぐらい買えたのに。

 それがいつしかその紙はその辺の石ころさえも低い価値しか持たなくなってしまった。

 ハイパーインフレの世界とはそういう物だ。

 『ハイパーインフレの悪夢』という本はドイツや、その隣国のオーストリアなどが陥ったハイパーインフレの世界とはどういう物かを克明に描いている。

 さらに、この本はその使命として、「ハイパーインフレの世界で生きる人間がする振る舞いとはどういう物か」を描き出そうとしている。

 この本をそれを知るためだけに読むのはなかなかに重いので、自分もできる限りその世界を真面目に描き出してみようと思う。

 これはハイパーインフレが起こる機構とは何かを探った本ではない。

 あくまで、ハイパーインフレが人の心にどんな影を落としたのかを書いている本だ。

 ハイパーインフレの世界はいつも忍び足でやってくる。

 最初はむしろ、景気が良くなるのだ。

 当然である、輪転機が無尽蔵に金を掃出し、それを企業の設備投資などにあてさせて、お金を市場に放出しているおかげで、企業は増産が行いやすくなり、その結果として製造できる物の数が多くなり、売上も伸びる。

 その結果として労働者として企業で働いていた人たちは賃金の増加に浴することができ、暮らし向きが良くなる。

 ただ、一方で賃金という形態、賃金という形ではない仕事を行っている人間はどうだろう。

 公務員とかもそうだった。

 賃金上昇により、多くの労働者が少し生活に使えるお金が増えたせいで、店側は労働者に合わせて値段を釣り上げる。

 だからこの上昇の恩恵を受けられない者たちは徐々に自分たちの影響のない物価上昇のせいでおいて行かれる。

 彼らの生活は崩壊する。

 そして生活が崩壊して心がすさむと、多くの人は何かに責任を転嫁したくなる。

 自分自身が悪いとは思いたくないし、実際この場合当人たちは何も悪くなかった。

 その際に矛先に上がったのは、世界の金融を支配していることが多かったユダヤ人だった。

 彼らの金融の操り方が悪いのでこうなっているという噂がまことしやかにささやかれた。

 そうなると、ユダヤ人弾圧の動きが出てくるのは必然だった。

 また、すさんだ心を持つ人たちはこの状況を打破してくれそうな雰囲気をまとう何かを熱狂的に支持する必要があった。

 心の支えを必要としていた。

 この文脈の中でヒトラーが台頭し、多くの人の心をつかみ、そしてユダヤ人迫害も正当な流れで受け入れられた。

 またある時、物価の上昇が賃金の上昇を追い抜いた時があった。

 すると労働者は生活が苦しくなるので企業にストライキを実行し、賃金上昇を求めた。

 企業は当然ながらそれにこたえざるを得なかった。

 しかし、労働者がストライキをしたことによって、本来供給されていたはずのものが供給されなくなったのは大きかった。

 そこの供給が減り、そこは当然ながらまたインフレの波の中に巻き込まれていった。

 財政政策を担当する人たちは立て続けに発生する問題の対応に追われ、物価上昇の本当の原因とは何かを見誤ってしまった。

 ちなみに発生した問題というのは、戦後賠償金の支払いであったり、戦争で勝利し、かつ昔ドイツに因縁があるフランスがここぞとばかりにドイツの工業地帯を差し押さえたり、とにかくまあいろいろだ。

 色々な事が積み重なってきっと実態が見えなくなっていた。

 だから政治家はまちがえざるを得なかった。

 的外れの財政運営が実行され国民の生活はどんどん崩壊へと向かっていった。

 それと同時に、ドイツの金であるマルクは他の国の貨幣に比べて価値がどんどん落ちていた。

 マルク自体を政府が刷りまくり流通量が増えていたので当然ではあるが。

 そしてそれを見て大量の旅行客が押し寄せた。

 彼らは1ドルを使って豪遊した。

 腹がはちきれんばかりに物を喰いまくり、酒を飲み、劇を見、何から何までのすべての愉悦を楽しんだ。

 彼らは1ドルを使いきれなかった。

 マルクが下がりすぎていたから。

 国民は彼らを恨んだ。

 自分たちは物価上昇についていけずに食う物がないときに、外国人旅行客は勝手に来てたった1ドルを使ってありとあらゆるものを食い漁っていった。

 また、実際に物を作れる人間は強かった。

 農民は農作物を自分で作れたので、食料を普通の人たちに供給できた。

 彼らも物価上昇にかこつけてとてつもない高額を普通の人たちに払わせ、自分の私腹を肥やした。

 国民は彼らも憎んだ。

 ……思い出せるのはこんなところ。

 色々な所で色々な歪みが生じていて、何が何だかわからない世界。

 もしそういうハイパーインフレの世界とは何かについて読んでみたいというのなら、この本を手に取ってみるといい。