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血みどろの戦地にあった、かすかならがら偉大な優しさと安息の物語――【感想】『戦地の図書館』

【本の紹介】

 思想を抹殺する。

 第二次世界大戦はドイツのそんな発想から始まっていたのかもしれない。

 1933年5月10日、ドイツのへーベル広場にて。

 煌々と燃え上がる薪の中に次から次へと本が投げ込まれていった。

 曰く、「ドイツの文学の純粋性を保つために、非ドイツ的な書物は燃やさなければならない」。

 あまたの文学者が産み落とした書籍が、「ドイツの権威を貶めた」であるとか「ドイツに反逆した」というような理由で燃やされていった。

 それは紛れもなく思想を抹殺しようという魂胆のもとで行われたことだった。

 だが、ヘレンケラーは言う。

「もしあなた方が思想を抹殺できると思っているなら、あなたたちは歴史から何も学んでいません。多くの暴君が思想を弾圧してきましたが、その思想はあらゆる経路から人々の心に伝わり、暴君をいずれ滅ぼしてきました」と。

 自由と民主主義をその基本信条としてきたアメリカは当然ながらこの暴挙に憤慨する。

 相手が本を燃やすならば、こちらは幾千もの本を使い対抗しよう。

 兵士のために本を使う。

 アメリカの図書館員は立ち上がった。

 戦地での疲弊と憔悴を乗り切るための一助として、戦場にいるというどうしようもない現実を一時の間忘れさせてあげるためにアメリカ中から本を集めて戦地に送り届けた。

 そしてアメリカの出版業界は立ち上がり、団結した。

 現地であまりに重い荷物を持ち運ぶ兵士が、銃弾が飛び交う戦場の中にいても、のどかな景色のつづけられた本を読み、故郷を思い出しながら、心の底から笑えるようにしてあげるためにポケットに入れて持ち歩けるサイズの本を作り上げた。

 お互いの正義をかけた戦いの中で生まれてきた本はいつしか、戦場で戦うすべての兵士の心の安らぎとなっていった。

 この本は、そんな正義のぶつかり合いの中から生まれた、海を越えた一億四千万冊の物語である。